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大阪高等裁判所 昭和62年(う)233号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八年に処する。

原審における未決勾留日数中三五〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人森岡一郎及び被告人作成の各控訴趣意書並びに控訴趣意補充書の趣旨で陳述した被告人作成の上申書記載のとおりであり(被告人の控訴趣意は、弁護人と同旨の事実誤認と量刑不当の主張である旨弁護人において釈明した。)、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官事務取扱検事藤村輝子作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨は要するに、原判決は、判示第七において、A子に対する強姦及び強盗の事実を認定しているけれども、被告人は、強姦の実行行為に着手する前、同女がまだ睡眠中に現金を入手しているから、強盗罪は成立せず、窃盗及び強姦罪が成立するに過ぎないから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも合わせ考え、次のとおり判断する。

原審で取り調べた関係証拠によれば、被告人が、昭和六〇年七月一二日午前二時三〇分ころ、原判示アイビーコート二〇八号室の被害者A子方に故なく侵入し、同女に菜切り包丁を突き付けるなど原判示のとおりの暴行脅迫を加えて強姦したこと、及び、その前後はともかく、被害者が就寝していたベッドの傍らにあったハンドバックの中から現金約三万円を奪取あるいは窃取したことの各事実は明らかであり、被告人も当審に至るまで争っていない。問題は、被告人が右三万円の占有を取得したのが強姦の着手前同女の睡眠中であるのか、強姦後であるのかということであり、所論は、前者であると主張し、被告人も当審においてこれに沿う供述をする。

この点につき原判決は、判示第七において、住居侵入及び強姦の事実を認定した後、「その直後、同女から現金を強取しようと考え、右暴行脅迫により同女が畏怖しているのに乗じ、更に『金はどこにある。』と語気鋭く申し向け、もしその要求を拒否すれば更に生命・身体にいかなる危害を加えられるかも知れないと同女を畏怖させ、その反抗を抑圧したうえ、同女が近くに置いてあった手提カバンを指示するや、その内から現金約三万円を奪取してこれを強取した」と起訴状とほぼ同旨の強盗の事実を認定し、現金の奪取を強姦の後としている。そして、被告人は、原判決挙示の検察官(昭和六一年九月三〇日付及び同年一〇月一四日付)及び司法警察員(同年七月一四日付及び同月一五日付)に対する各供述調書において、右強盗の事実を詳細に自白している(そのほかに、司法警察員作成の同年七月一七日付実況見分調書において、右自白に沿う状況を再現している。)ばかりでなく、原審第一一回公判においても、起訴状記載の強盗等の公訴事実は間違いない、被告人が警察、検察庁で述べたことは間違いない、と陳述し、更に、被害者A子の司法警察員に対する昭和六〇年七月一二日付供述調書によれば、強姦された後、被告人から「金はどこにある」と言われ、「そこらへんにあるでしょう」と答えたところ、被告人はベッドの近くにあったハンドバックを開けて中を探し、裸のまま入れてあった三万円を取ってズボンのポケットに突っ込んだ旨右自白に沿う供述をしているので、原判決認定の事実は証明十分であるかのようである。

しかし、さらに検討すると、

(1)  被告人は、昭和五三年ころ以来、深夜マンション等に侵入して多数の窃盗及び強姦、同未遂事件を起こし(被告人の検察官に対する昭和六一年一〇月六日付供述調書によれば、窃盗は二〇〇〇件近く、強姦、同未遂は六一件位という。)た末、昭和六〇年九月二八日逮捕され、以後一年以上にわたり多数の窃盗、強姦等の事実の取り調べを受けたが、本件の事実については、前記強盗の事実を認める供述調書までに、昭和六〇年一二月一二日付自供書、翌六一年三月一八日付自供書及び同年五月二日付司法警察員に対する供述調書において供述しており、それらによれば、被害者が寝ているうちに現金を窃取し、その後で強姦したと供述している(もっとも、現金窃取の態様としては、タンスの上にあった財布から取ったと事実に反する供述をしている。)。

(2)  その後被告人は、同年七月一四日付司法警察員に対する供述調書に至って、強姦後強盗した事実を認めるようになったのであるが、そのことにつき被告人は、当審において、取調警察官に対し被害者の就寝中に現金を窃取した旨供述したものの、「被害者は被告人が現金を取ったところを見ていると言っている」「被害者が言っているのだから仕方ないやないか」「一件ぐらい背負って行け」と言われ、他にも強姦後現金を奪った事件があったことから、強盗の事実を認めても大差ないと思い、「被害者の言うとおりでいいです」と供述し、その後検察官に対しても、また原審においてもその自白を維持したと供述している。右のうち、原審においても自白を維持したことについては、たとえ当時国選弁護人との打ち合わせが十分なされなかった事情があったとしても、外に強盗罪は起訴されておらず、強盗罪が成立することになれば、刑が重くなることぐらいは被告人においても分かっていたものと認められるから、被告人の当審における弁解を直ちに信用するには躊躇を感じる。しかし、一方、被告人が多数の窃盗及び強姦等の犯行を犯していたことは前記のとおりであり、その中には、住居に侵入して被害者に気付かれないうちに現金を窃取しその後強姦に及んだことや逆に強姦した後に現金を奪ったことも何件かあったことがうかがわれるから、被告人においてその一つ一つについて確たる記憶がないのが通常であると考えられ、更に、取調警察官においても、前記のとおり、強姦後現金奪取を明言している被害者の司法警察員に対する供述調書があるところから、そうではないかと被告人の記憶を喚起させ、あるいは誘導することも当然考えられ、以上の諸事情をも勘案すると、数ある事件のうち一つぐらいは大差ないと思ったという被告人の当審に至ってからの前記弁解を、にわかに排斥することは難しいといわなければならない。

(3)  被告人は、当審において、室内に侵入してあちこち現金を物色し、被害者が目を覚ます前にハンドバックから現金を窃取した旨供述しているのであるが、司法警察員作成の昭和六〇年七月二五日付実況見分調書で認められる被害現場の状況や、被害者が最初は眠っていたことが明らかであること、更には被告人は、他の同種犯行では被害者に気付かれないうちに現金を物色する事例が多かったことからすれば、右供述する犯行の態様そのものは不自然とはいえない。特に、当審証人A子の供述によれば、被害者が寝るときハンドバックの蓋は開いていた、また、電話機に当たったような「カチャ」という物音で目を覚ましたら、被告人はベッドの傍らの電話機のそばにしゃがんでいたというのであり、そうであるならば、被告人が被害者に気付かれないうちに室内を物色した際、ベッドの傍らにあったハンドバック(円筒型のもので、定期入れなどとともに現金を裸のまま入れていた。)の中から現金を捜し出すのは余計容易と考えられ、被告人の右供述を一部裏付けるともいえる。また、被告人は逮捕後昭和六〇年一二月ころから、強姦後現金を奪取した事件を含む多数の強姦事件を自白するようになり、自供書を自ら作成していたことがうかがえるから、本件についての自供書について、あえて罪責を軽くするため虚偽の事実を記載する理由はないとも考えられ、これも被告人の従前の供述をむげに排斥できない理由の一つとなる。

(4)  一方、被害者A子は、前記司法警察員に対する供述調書が作成された一年以上後である昭和六一年九月九日に検察官の取り調べを受け、被害の模様を再度供述しているのであるが、同日付供述調書によれば、ベッドで強姦された後、被告人から「金はどこにある」と言われたので、「カバンのなかにある」と答え、体を起こしてベッドの近くに置いてあったハンドバックを指さそうとしたところ、被告人から「起きるな」と止められ、その後被告人はハンドバックの中から三万円を持って行ったようであるが、私は目をつぶっていたので見ていない旨、司法警察員に対するのと異なる供述をしている。そして、被告人は当審においても、強姦後現金を要求したことは認めているので(既にハンドバックから金を取っていたが、もっと欲しくて要求したものの、被害者からそのハンドバックを指し示されたので、それ以上探さなかったという。)、右被害者の検察官に対する供述は、被告人が強姦後現金を強取したことを裏付けるものではない。

(5)  ところで、検察官は、右被害者の取り調べ当時、当然送致記録を検討して、被告人が昭和六一年七月一四日付司法警察員に対する供述調書では強姦後の現金奪取の事実を認めているものの、それ以前は被害者就寝中に現金を窃取したと供述していたことや、被害者が昭和六〇年七月一二日付司法警察員に対する供述調書で、強姦後現金を奪取された模様を供述していることを知っており、現金奪取の時点がいつであるかが、特に強盗が成立するのか否かの点で重要であることを認識し、問題意識を持って被害者の取り調べに当たったことが認められる(被害者A子も、当審において、現金が取られた時点の供述が自分と被告人とが異なっている旨検察官から指摘を受けたと証言しており、右事実を裏付けている。)。とすると、検察官は被害者に対し、特に現金をいつどのようにして取られたかについては綿密に質問したことがうかがわれ、被害者が当審で証言するような、警察官の取り調べの「おさらい」ではなく、その質問に対する供述は重要なものといわなければならない。

被害者は、右検察官の取り調べを事件後一年以上経過して受けたのであるが、本件は、当然のことながら、被害者にとって忘れたくても忘れられないほど大きな衝撃を受けた事件であることがうかがえるから、現金奪取の模様についても記憶が薄れることはにわかに考えられないのであり、検察官の綿密な質問に対し、見ていないと供述していることはきわめて重要である。そのうえ、強姦の際、被告人が包丁を突きつけながら、「目をつぶれ」と何度も脅迫していたことは、被告人も被害者も一致して供述しているところであり、強姦されてきわめて畏怖した状態にある被害者が、しかも深夜明かりがついていない室内で、たとえベッドの傍らにハンドバックがあるとはいえ、その中から被告人が現金を取り出す模様を見る心理的余裕があったかは疑わしい。

(6)  もっとも、被害者は、被害を受けた直後である昭和六〇年七月一二日付司法警察員に対する供述調書では、これを目撃した旨明確に供述していることは前記のとおりであり、これは被告人の逮捕前、他からの誘導がなされない状態での供述とは思われるが、強姦の被害を受けた後、被告人から現金を要求されて近くにあるハンドバックを指し示したことと、後で確かめたところそのハンドバックの中に入れてあった現金がなくなっていたことから、その間に奪取したものであろうと想像して供述したとも考えられ、記憶が新しいからといって直ちに信用性があるとはいえない。また、被害者は、司法警察員に対する昭和六一年六月一九日付告訴調書においても、強姦後「金はどこにある」とすごまれ、三万円を脅し取られた旨供述しているが、同調書は、被告人が逮捕された後、被害者の告訴の意思を確認するための調書で、供述内容も右の程度の簡単なものであるから、被害状況に関する証明力はほとんどない。

また、被害者A子は、当審証人として、薄目を開けていたので被告人がハンドバックに触ったところや現金をハンドバックからつかみ出してズボンのポケットに入れるような動作をしたところをはっきり見た旨前記司法警察員に対するのと同様の供述に戻っている。しかし、かなり畏怖し「目をつぶれ」と言われていた同女が、右の被告人の動作を見る心理的余裕があったかとの疑念もあるうえ、同女の当審証言には、検察官に対する供述が警察官に対するのと違うとは思わなかった、検察官に対しても目をつぶっていて見ていないとは言わなかったとか、被告人がハンドバックの中を物色したとき、片手に包丁を持っていた(この点は、強姦の際被害者に取られないよう手の届かないところに放り、逃げるまで触ってないという被告人の供述の方が自然であり、事件直後に実施された実況見分とも合致する。)とか、不自然な供述があるばかりでなく、総じて同女の供述には、自分の性格や進路、ひいては人生さえも変えさせた張本人であり、しかも事実の一部を否認し刑の軽きを願っている被告人に対する強い被害感情が見られる(それ自体は当然のことであり、十分理解できる。)ので、その証言の証明力は割り引いて考えなければならない。

以上説示したところによれば、強姦後の現金奪取の事実を認めるかのような被告人の昭和六一年七月一四日付以降の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、原審供述並びに被害者の昭和六〇年七月一二日付司法警察員に対する供述調書、当審証言の証明力は必ずしも高いものでなく、これを否定する被告人の当審供述を覆すことができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、右事実は証明不十分であり、被告人は被害者が就寝している間に現金を窃取したものと認めるのが相当である。

そうすると、その場合の被告人の罪責が問題となるのであるが、前記認定したところに関係証拠を合わせ考えれば、被告人は強姦及び窃盗の両目的をもって室内に侵入し、前記のとおりハンドバックの中から現金を窃取し被害者を強姦した後、更に同女を脅して現金を奪おうと企て、強姦の際の暴行脅迫により同女が極度に畏怖しているのを認識しながら、「金はどこにある。」と語気鋭く申し向けたところ、もし現金の在り場所を言わなければ更に生命・身体にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖した同女が「そこらへんにあるでしょう」と言って右のハンドバックを指し示したものの、もうそこからは現金を抜き取った後だったので、現金を奪う気がなくなりそれ以上現金を探す事なく、その場を立ち去ったことが認められ、強姦後の行動だけをとらえても、優に強盗(未遂)罪の構成要件を充たすものといわなければならない。すなわら本件は、住居侵入の後まず窃盗があり、次に強姦があり、最後に強盗未遂があった事案であり、窃盗と強盗未遂とは、財物奪取に向けた社会的に同質の行為が同一場所で同一機会に連続してなされたものと評価されるので、両罪のいわゆる包括一罪として重い強盗未遂罪の刑で処断すべきものと解するのが相当である(現金は、暴行脅迫によって奪取されたものではないので、強盗既遂罪は成立しない。なお、最高裁判所昭和六一年一一月一八日第一小法廷決定・判例時報一二一六号一四二頁参照)。

以上によると、強姦後の現金奪取の事実を認定し、強盗既遂罪の成立を認めた原判決は事実を誤認し、右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、これと他の罪との併合罪により一個の刑を科した原判決は、全部につき破棄を免れない。論旨は、一部理由がある。

よって、量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い更に次のとおり判決する(本件事案及び訴訟の経過にかんがみ、前記のとおり認定するにつき訴因変更の手続は不要と解せられる。)。

(罪となるべき事実)

原判示第七を左のとおり訂正するほか、原判決のとおりであるから、これを引用する。

「金品を窃取し、かつA子(当時二〇歳)を強姦する目的をもって、昭和六〇年七月一二日午前二時三〇分ころ、所携のティーシャツで覆面をして、兵庫県西宮市野間町四番二三号アイビーコート二〇八号室同女方の無施錠のベランダガラス戸から室内に侵入し、台所流し台の下に収納されていた菜切り包丁一本(昭和六二年当庁押第九七号の1)を持ち出して右手に持ち、居間南側の同女が寝ているベッドの傍らに赴き、同所の床上にあったハンドバックから現金三万円を窃取してポケットに入れたうえ、目を覚ました同女の口を左手で押さえ、その顔面に右包丁を突きつけ、『声を出すな、騒ぐと殺すぞ』『目をつぶれ、手を腰の下に入れろ』などと申し向け、その下着を引き裂くなどの暴行脅迫を加えて同女の反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫するとともに、その直後、同女から更に現金を強取しようと考え、右暴行脅迫により同女が畏怖しているのに乗じ、『金はどこにある』と語気鋭く申し向け、もしその要求を拒否すれば更に生命・身体にいかなる危害を加えられるかもしれないと同女を畏怖させたが、同女が前記現金窃取済みのハンドバックを指し示したため、それ以上現金を奪取することを断念してその場を立ち去り、強取するに至らなかった」

(証拠の標目)《省略》

(累犯前科)

原判決のとおりであるから、これを引用する。

(法令の適用)

被告人の原判示第一、第三及び第六の各所為はいずれも刑法一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第二の各所為及び第七の各所為のうち窃盗の点はいずれも刑法二三五条に、判示第四、第五及び第七の各所為のうち住居侵入の点はいずれも同法一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第四及び第五の各所為のうち強姦未遂の点はいずれも刑法一七九条、一七七条前段に、判示第七の所為のうち強姦の点は同法一七七条前段に、右所為のうち強盗未遂の点は同法二四三条、二三六条一項にそれぞれ該当するところ、判示第四及び第五の各住居侵入と各強姦未遂との間並びに判示第七の住居侵入と窃盗、強姦及び強盗未遂との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、いずれも同法五四条一項後段、一〇条により、更に判示第七の窃盗と強盗未遂との間には包括一罪の関係があるので、判示第四及び第五についてはいずれも一罪として重い強姦未遂罪の刑で、判示第七については結局一罪として最も重い強盗未遂罪の刑で、それぞれ処断することとし、判示第一、第三及び第六についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の別表一一の1ないし13の各罪は前記前科との関係でいずれも再犯であるから、同法五六条一項、五七条によりそれぞれ累犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の別表一一の9の罪の刑(但し、短期は強盗未遂罪の刑のそれによる。)に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で後記の情状を考慮して被告人を懲役八年に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中三五〇日を右刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、五年間以上にわたる八〇件の窃盗(被害総額 現金約五五一万八九〇〇円及び財布等八二点《時価合計約一一万三三〇〇円》)、強姦一件、同未遂二件、強盗未遂一件その他住居侵入の事案であるところ、被告人は、自動車を利用して広範囲にわたり移動しながら、大胆にも深夜看護婦宿舎やマンションに高所のベランダ等から侵入して主に現金を窃取するとともに、就寝中の婦女に対し覆面をして菜切り包丁を突きつけたうえ、「子供を殺す」などと脅迫して強姦し、あるいは強姦・強盗をしようとしており、高層住宅に居住する被害者がベランダ側の施錠を怠ったからといってあえて過失があるということはできないこと、本件窃盗の件数が多く、被害額が多額であり、被告人に同種窃盗罪による懲役刑の前科が三件あることをも考え合わせると、その犯行は職業的ともいえ常習性が顕著であること、強姦・強盗未遂等の犯行は凶悪というほかなく、被害者に与えた精神的打撃は察するに余りあり、再犯の虞れもないとはいえないこと、本件により市民生活に与えた不安感も軽視することができないことなど諸般の事情に徴すると、被告人の刑責には重大なものがあるというべきであるから、被告人が本件各犯行の大半を自ら進んで供述し、反省の態度がうかがえることや、当審に至って強姦未遂の被害者二名に計一六万円を送金し、強姦・強盗未遂の被害者への送金に代え更生保護協会に一三万円を寄付したこと、その他被告人の家庭事情など被告人に有利な一切の事情を考慮しても、主文掲記の刑が相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中孝茂 裁判官 清田賢 島敏男)

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